เข้าสู่ระบบつま先を使って抜き足差し足で忍び寄り、台所に立ってる細身の身体にぎゅっと抱きついてあげた。「なっ!?」「待っていられなくて、勝手に上がらせてもらっちゃった。お水、ありがとアキさん」 肩に顎を乗せてお礼を言うと、くちびるが見る間にぶるぶると震えだす。今直ぐにでも塞いで、その震えを止めてあげたいな。「はっ、放して、よ……。お願ぃ、だから」「そんな風に震えながら掠れた声をあげてくれるなんて、まるで感じてるみたいに聞こえるね」「ちがっ……。そんなんじゃ、な――っ!?」 ふふっと笑いながら、傍にあるふっくらした耳たぶを口に含んだ。柔らかくてしっとりしているそれに、どうにかなってしまいそうだ。 荒い呼吸を繰り返す身体を手早く反転させて向かい合う形にしたら、悲しげな色を宿した瞳が俺の顔を捉える。見つめられるだけで、体温が一気に上がってしまうよ。「もう誰にも邪魔されない。俺だけのモノにしてあげるアキさん」「それは……きっと無駄だよ。そんなことをしても、俺の心は手に入らない。むしろ君を、どんどん嫌いになるだけなのに」 静まり返る家の中にアキさんの声が響いた。自分のすぐ傍で告げられた言葉だったけど、ほぼ泣き声に近くて所々聞き取りにくかった。だからこそ、しっかりと耳を傾けたんだ。心と一緒に――。「嫌いなんていう、生ぬるい感情は嫌だな。むしろ憎んでくれて構わないよ」「えっ!?」「だってその方がアキさんの心の中に、深く深く残るでしょう? 真っ黒い影になって、井上さんという光を覆い隠す存在になるんだ」 漆黒の影になって心の中で光り輝いているであろう井上さんを飲み込み、忘れられない存在になってやる。「……可哀想な、ひと……」 切なげな表情をしながら、じぃっと俺を見つめたアキさんに、一瞬だけ息を飲んでしまった。(何で……なんだ――どうして!?)「こんなときまで、変な優しさをかけないでよ。自分が今、どんな状況なのか分かっているよね?」 動揺を悟られないように彼の腕を掴み、力任せに引っ張ってその場に押し倒してやる。どこか打ったのか、痛そうな顔を見て躊躇ってしまった。 ゴメンって、声をかけようかと思ったけれど――さっきのアキさんのように変な優しさをかけると隙を与えてしまう恐れがあると考えて、すかさずその身体に跨った。「その泣き顔を悦びに変えてあげる。いっぱ
生暖かい風が吹く中、コンビニの外で350mlの缶ビールを開けた。ちょうど3本目を飲み終える頃にアキさんが外に出てきて、俺の姿を見た瞬間にぎょっとした表情を浮かべる。 ただ待っていただけじゃなく、飲んでいるという事実に面食らったであろう。「お疲れ様ぁ、アキさん。待ってるのが寒くって、こんなところで宴会しちゃった」 大きな声で話しかけたのにそれを無視して、脱兎のごとく駆け出した彼を追いかけるべく、転がしていた空き缶を手早く拾い集め、外にあるゴミ箱に捨てて、その背中を追いかけた。「うわー、飲んでるから追いかけるの、結構つら~……」 追いかけるアキさんの背中が、右に左によく揺れる。って俺が揺れてるから、そうなるのか。ちょっと飲みすぎちゃったな―― 若干の気持ち悪さを抱えながら、走ること数分。そうこうしている内に、もうすぐアパートに到着してしまう場所に差し掛かった。(――仕掛けるなら、今だろう……) 目をぎゅっと瞑り、思いきって転んでやった。ズシャッ! なぁんていう、大きな音までオマケでつくとかラッキー。「いったぁ……」 あまり痛くはなかったけど、転んだことを大げさにすべく大きな声で言い放つ。否が応でも、アキさんの耳に届いただろうな。 顔を歪ませて必死に笑いを堪えていると、アキさんが渋々といった感じでやって来て、俺に向かって手を差し出してきた。「大丈夫?」 まんまと騙されてくれたことに思わず笑い出しそうになり、慌てて顔を背ける。口元を押さえて、何とか微笑を隠した。「……あまりにも惨めな姿に、仕方なく手を貸してくれる気になったの?」 笑いを堪えているので、必然的に声色が震える。それが迫真の演技になって、彼に伝わったかもな。泣いていると思ったかもしれない。「そんなこと……ないよ。だって友達だし。俺たち……」 アキさんはどんな顔して、それを言ったんだろう。優しいくせに残酷な人だ――だけど俺は愛おしくて堪らない。「っ……なんで……なんで友達以上になれないんだよっ!!」 もしも願いが叶うなら井上さんよりも先に、アキさんに出逢いたかった。先に出逢っていたら、もしかしたら俺に恋していたかもしれないよな。「竜馬くん、お酒あんまり強くないのに、飲み過ぎたみたいだね」「何度となく告白してもスルーしたアキさんから、そんな風に優しい言葉をかけられるなんて
*** あの後――『押し付けられる想いは、迷惑にしかならないよ。それに今みたいに抱きついたり嫌なことをするようなら、俺にも考えがあるから』 というアキさんの考えを読み、バイトをしている店の外で待ち伏せをしてみたり、その帰りをただ背後をついて歩いたり、他にもアパート前で待ち伏せして、姿を現すだけにしてみた。 バイトを終えて疲れて帰ってくる彼のストレスを考慮したら、張り詰めるような緊張感が続くのは、せいぜい1週間から10日くらいだろうと予想を立てた。まあどんなに長くても、俺のこの想いは簡単に消えるものではないけれど。 そんな自分で予想したアキさんの精神力がどれくらい持つか、先が見えないものだからこそ楽しみもあって、怯える彼の背中を窺いつつ、必死になって隙を探した。 しかしながら当然というか思っている以上に彼のガードが固く、そういうところがアキさんらしいなと毎回微笑んでしまう俺は、相当逝かれてると思う。 だけどそれも、今夜で終わりにしてあげるね――。この手を使って、アキさんを俺のものにしてあげる。どんなに逃げても追いかけて、ぎゅっと抱きしめてあげるから、楽しみにしていてほしいな。「アキさん、大好きだよ……」 彼に恋人がいても気にしない。絶対に俺のものにしてしてみせる! たとえそれがアキさんに嫌われる行為になったとしても――。「俺の想いをアキさんに伝えるために、やらなきゃダメなんだ!」
*** 出口のない迷路を、当てもなく彷徨っているような感覚――アキさんを追いかけたところで困らせてしまうことが分かっているのに、追いかけずにはいられない。心の中で燻っている、蒼い色をした残り火がある限り……。 コンビニの影に身を潜め、壁に寄りかかりながらアキさんが出てくるのを待っていた。 ここに到着したときに見た店内で働く様子は、笑顔を絶やすことのない楽しげな感じで、自分と一緒にいるときとの違いに、正直ショックを受けてしまった。出待ちを躊躇うくらいショックだったのにそれを押し留めたのは、胸の中でちりちりと燃えている蒼い炎だった。「……井上さんに負けたくない。俺だって、アキさんが好きなんだから」 拳を握りしめて空を仰ぎ見た瞬間、従業員出入り口の扉の開く音が耳に届く。物陰からそっと窺ってみたら、外の寒さに身を縮込ませながらも、柔らかい笑みを口元に浮かべるアキさんがそこにいた。(君を振り向かせるために、俺はここに来たんだよ――)「お疲れ様、アキさん」 大きな声で言い放ちながらコンビニの影から突然出てみると、一瞬で表情が変わった。大きな瞳をさらに大きくして、俺をじっと見つめる。 アキさんに見られている――そう感じるだけで、胸がいっぱいになるな。「な、んで?」「何でって、それは俺が言いたいよ。いきなりシフトを変えちゃうんだもんな。大学だって逢うのは稀なのに、ここでも逢えないとなったら、アキさんの帰りを狙うしかないじゃないか」 井上さんから君を奪うには、少しでもいいから接触しなければならない。俺の存在をその身に感じて、たくさん意識してもらわねばならないからね。「ハハッ、すっごく驚いた顔してる。大丈夫、安心して。夜道で襲ったりしないから」 とりあえず、何もしないことをアピールしてみた。「と、当然だよ、そんなの……」 顔を引きつらせつつじりじりと俺との距離をとってから、逃げるような足取りで歩き出すアキさんの横に並ぶように、同じように早足で歩いてやる。「俺ね、アキさんが大学構内の階段下で電話してるの、こっそり聞いちゃったんだ」「!!」 微妙すぎる表情を浮かべていたからこそ、思いきって大学構内の話を投げかけてみた。「『愛してる、穂高さん』って言ってるのを聞いて、すっごく妬けた。井上さんが羨ましくなった。だけどね……」 俺の言葉に恐るおそるとい
*** 次の日の夜のバイトの時間。アキさんと逢える貴重な時間に、心がウキウキしていた。ゆっきーの顔を見るまでは――。「竜馬、お疲れー」 先に店舗に入っていた俺に、ダルそうな感じで挨拶してきた。「お疲れ、さま……。何でゆっきーがシフトに入ってんの? アキさん病欠?」 カウンターにあるレジの前でぴきんと固まる俺に、はーっと深いため息をついて、眉根を寄せながらじっと見つめるゆっきー。「何でって、思い当たるフシがあるでしょ。あまりにも可哀想だから、俺とシフトをチェンジしたんだよ」「そんな……」 アキさんに逢える貴重な時間が、これでなくなってしまったじゃないか!「いい加減に諦めなよ。ホントのところは、応援したいんだよ俺だって。千秋に好きな人がいなければの話だけどさ」 言いながら、どんっと体をぶつけて苛立ちを表す。「だけどライバルがあのカッコよすぎるイケメンじゃあ、絶対に無理だって。千秋もぞっこんって感じでしょ?」「うん、そうだけど」「竜馬だって、そこそこのイケメンなんだしさ。千秋を諦めて、もっと周りを見てごらんよ。いい人がきっといるって」 分かるような分からない説得をするゆっきーに、首を縦に振ることが出来なかった。「そんなの無理だよ。だってアキさんが好きなんだ、すっごく」「竜馬……」「どうやってこの気持ちを断ち切ればいいか、全然分からないんだよ。その方法を教えて、ゆっきー。辛くて堪らない……」 アキさんに逢える唯一の貴重な時間が絶たれて、このときはマイナス思考が心の中をぐるぐる支配していたけれど、あとから冷静に考えたときに思いついたんだ。アキさんのシフトの日を狙って、帰りを待ち伏せすることに――。
アキさんが逃げるように目の前を走って去っても、追いかける事が出来なかった。当然だ――下半身がこんな状態では、そこら辺すら歩けない。『押し付けられる想いは、迷惑にしかならないよ。それに今みたいに抱きついたり嫌なことをするようなら、俺にも考えがあるから』 押し付けたくて告げているわけじゃない。少しでもいいから、自分の気持ちを分かってほしいだけなのに。俺以外の誰かのことを想ってる切なげなアキさんの顔でも、こんなに愛おしく想っているのだから。(でもビックリだな、男相手に勃っちゃうなんて……。きっとアキさんも気がついているから、すごく慌てていたんだろう) はーっと深いため息をつきながら、窓から見える外の景色を見た。どんよりとした曇り空は、まるで自分の心の内のようだ。「あ~あ、講義はじまっちゃったな。どうしようか……」 呆れながら暫くその場に佇んでいたら、ある程度下半身が落ち着きを取り戻したので、カフェテリアに行こうと身を翻した。 気落ちしながら下を向いて歩くと、誰かの話し声が耳に聞こえてくる。辺りがしんと静まり返っているため、否が応でも聞き取れてしまった。 人の話なんて聞いてはいけないものだから、いつもならやり過ごすところなんだけど、ボソボソした声でも聞き覚えのあるそれに導かれるように、階段へ向かって歩を進める。『ありがと。来てくれる日を、指折り数えて頑張るね』 靴音を立てないように注意深く近づいたら、階段の下にある窪みのところから聞こえてきたアキさんの声。それはとても可愛らしく弾んだもので、俺の聞いたことのない声色だった――それだけでも妬けるというのに……。『愛してる、穂高さん』 少しだけ照れの混じった言葉が、ずしりと心に圧し掛かった。「くっ……」 どんなに想っても彼からは告げられることのないその言葉に絶望感を覚えて、眩暈で頭がクラクラする。 胸が張り裂けそうなくらい、アキさんが好きなのに――俺は君の笑顔を曇らせる、忌まわしい存在でしかないんだよな。 ふらつく足取りでその場を離れ、一気に階段を上がった。空き教室を探してあちこちを彷徨い、2階上の階段傍にある教室に足を踏み入れる。 音を立てて扉を開け、壁にズルズルと寄りかかりながら、きゅっと下唇を噛み締めたとき、胸の奥底で何かが光り輝いた。開けっ放しにしている扉をそのままに目をつぶり、それ
「穂高さん?」 不思議顔をしているであろう俺を見下ろす穂高さんの表情は、どこまでも穏やかで頼もしさを感じるものだった。 目を何度も瞬かせながら見上げる俺に、穂高さんは印象的に映る瞳を細めて、穏やかに語りかける。「まったく。千秋のその態度は、俺が迫ったときと同じだね」(――どうして、そんな昔のことを喋るんだろう?)「ぉ、同じってどこがですか……」「好きなくせに、嫌いな態度をとるところだよ。認めるのが怖いのかい?」「怖くなんてないですけど」「だったら、素直になるといい。君が向かい合っているのは、世界にいる誰よりも君の幸せを願う、大切な親なんだから」 その言葉を聞いた途端に、鋭い
「彼とここで暮らしていくと決めたからには、漁師を辞める理由くらいで、本州に戻るつもりはありません」 静かに――だけどハッキリと、自分の意見を告げた。こんなふうに自分の意見をはっきり言い切ったのは、穂高さんと一緒に実家に顔を出して以来だった。「コンビニはおろか、まともな医療施設もないこの島で、一生を過ごすというのか。今日の宴会場にいた年齢層を考えると、これから一気に過疎が進んで、住みにくくなるのが目に見えるというのに」「お父さんは俺に、帰って来てほしいということなんですか?」 これまでの話の流れを考えた結果をもとに、意を決して発言してみた。本来ならお父さんのいる会社に就職しなければなら
「念入りに触れ合い、とは?」「そっ、そうなんだ。念入りに話し合いをして、すれ違いや喧嘩をしないようにお互い突き詰めるみたいな感じのことを、穂高さんは言ったみたい。アハハ!」 誤魔化しきれないのを承知で喋り倒し、どうにも間が持たなくて、中身が残っていた缶ビールを一気飲みしてしまった。(お父さん、穂高さんの触れ合いっていう言葉に、どうかツッコミを入れないでください) そんな俺の気持ちを知らない穂高さんが、「あっ」と思い出したかのように呟いたあとに口火を切る。「そういえば千秋と喧嘩らしい喧嘩を、一緒に住んでからはしていなかったな。離れていたときはそれなりに連絡を取っていたが、誤解させるよ
穂高さんの背中から手を放すと、急がなければという感じで風呂場に向かう。その優しい心遣いを目の当たりにして、自然と心が癒されてしまった。「ち、千秋……」 リビングの中央で堂々と突っ立っているお父さんが、俺に向かって話しかけてきた。意を決して、躰ごと振り返る。「……なに?」 いつも以上に険しい表情をしているお父さんを前にして、どんな態度で接したらいいのかわからない。俺たちを鏡合わせだと指摘した、穂高さんの言葉をどうしても意識してしまって、顔を俯かせるのがやっとだった。「おまえは今、幸せなのか?」 されるとは思わなかった、幸せについての質問。頭がぶわっと混乱して、すぐには答えられない